お子さまの小学校ご入学、おめでとうございます。少し大きめのランドセルを背負う姿に、成長の喜びと、これからの学校生活への期待で胸がいっぱいになる時期かと思います。
それと同時に、新しい生活の準備を進める中で、共働きのご家庭では「仕事と育児の両立」について、改めて考える機会も増えるかもしれません。
「働き方のスケジュールはどう調整しよう?」 「放課後、子どもが安心して楽しく過ごせる場所はあるだろうか?」 「私たちの家族に合った放課後の過ごし方は、どんな選択肢があるんだろう?」
こうした、小学校入学という節目に生まれる様々な検討事項や課題を、一般に「小1の壁」と呼んでいます。
これは多くのご家庭が経験することで、決して特別なことではありません。実際、ある研究によると、子どもの小学校入学を契機に、何らかの働き方の変化を余儀なくされた割合が約半数になると言われています。
※参考:宇田香織『いまだ高い「小1の壁」~量と質の両面で放課後児童クラブの拡充を~』(SOMPOインスティチュートプラス)
この記事では、「小1の壁」の背景にある保育園時代からの変化を一つひとつ整理し、多くのご家庭で実践されている具体的な対策を、幅広くご紹介します。様々な選択肢を知ることで、皆さまのご家庭にとって最適な方法を見つける一助となれば幸いです。
第1章:「小1の壁」とは?保育園時代との「4つの変化」
お子さまが小学校へ入学するタイミングで、多くのご家庭が保育園時代とは異なるいくつかの変化に直面します。これが、一般的に「小1の壁」と呼ばれるものです。ここでは、主な4つの変化について見ていきましょう。
① 時間の過ごし方の変化
保育園の多くは、朝早くから夕方以降まで、子どもたちの生活を長くサポートしてくれました。一方、小学校は学びの場であるため、14時半頃には授業が終わり、子どもたちは帰路につきます。
保護者が18時に仕事を終える場合、お子さまが下校してからお迎えまでの数時間をどう過ごすか、という点が新しい課題となります。この放課後の時間の使い方に、多くのご家庭がまず向き合うことになります。
② 長期休暇の発生
小学校には、保育園にはなかった夏休み、冬休み、春休みといった長期休暇があります。合計すると年間で2ヶ月以上になることも。もちろん、保護者の仕事はその期間も続きます。
日中の過ごし方をどうするか、また給食がない期間のお昼ごはんをどう準備するかなど、長期休暇ならではの新しい工夫が必要になります。
③ 保護者の役割の増加
小学校に入学すると、保護者として関わる事柄も少しずつ増えていきます。
- 学習面のサポート: 毎日の宿題のチェックや音読の確認など、お子さまの学習を見守る役割が始まります。
- 持ち物の準備: 明日の時間割に合わせて、教科書や学用品を一緒に確認・準備することも大切な日課になります。
- 学校との連携: 定期的な保護者会やPTA活動などを通じて、学校とのコミュニケーションもより密になります。
④ お子さま自身の環境の変化
忘れてはならないのが、お子さま自身が最も大きな環境の変化を経験しているという点です。慣れ親しんだ保育園とは違う広い校舎や新しい友人関係、そして「勉強」との出会いなど、お子さまなりに多くの刺激と不安を体験しています。
「学校に行きたくない」「疲れた」といったお子さまからのサインは、新しい環境に順応しようと頑張っている証拠かもしれません。保護者としては、ご自身の働き方だけでなく、お子さまの心のケアという、繊細な課題にも向き合う必要があります。
第2章:なぜ壁は生まれるのか?社会構造から見る「量的」と「質的」な課題
「小1の壁」は、個々の家庭の努力不足ではなく、社会インフラの問題であると専門家は指摘します。 一般社団法人民間学童保育協会の設立シンポジウムにて、一橋大学経済学研究科の高久玲音(たかくれお) 准教授は、その原因を大きく「量的」と「質的」の2つの課題に分類して解説しました。
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◆社会の変化と受け皿のミスマッチ(量的課題)
共働き家庭の増加に伴い、放課後のケアを必要とする児童の数は年々増加しています。しかし、その需要の伸びに対して、社会全体の受け皿の整備が追い付いていないのが現状です。
多くの自治体や民間事業者の尽力によって受け皿は年々拡大していますが、それを上回るペースでニーズが高まっているため、結果として希望しても利用できない児童、いわゆる待機児童が生まれるという構造的なミスマッチが起きているのです。
◆現代のニーズと従来の仕組みのギャップ(質的課題)
放課後の児童の安全な居場所を確保するという点で、公設学童は長年にわたり社会で極めて重要な役割を果たしてきました。しかし、社会や働き方の多様化に伴い、保護者が放課後に求めるニーズもまた、多様化・高度化しています。この「現代の新しいニーズ」と「従来の基本的な預かりの仕組み」との間に、いくつかのギャップが生まれています。
- 多様化する働き方とのギャップ 残業や不規則な勤務など、保護者の働き方はますます多様化しています。従来の学童保育の開所時間では、こうした柔軟な働き方に対応することが難しい場面も出てきています。
- 帰宅後の家事負担という課題 仕事を終えてお迎えに行き、そこから慌ただしく夕食の準備や宿題の確認をする。多くのご家庭が、この帰宅後の時間の使い方に課題を感じています。
- 学びや習い事に対するニーズの高まり 近年、放課後の時間を「安全な預かり」だけでなく、子どもの興味や才能を伸ばす「学びの時間」として活用したいというニーズが非常に高まっています。専門的な学習プログラムや多彩な体験活動は、従来の預かりの仕組みだけでは提供が難しい領域です。
この「量的」「質的」な課題は、当協会のシンポジウムでの指摘に留まらず、国の調査データによっても裏付けられています。
厚生労働省が毎年発表している「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」報告を見ると、放課後児童クラブの登録児童数は年々増加の一途をたどっており、共働き家庭にとって学童保育が不可欠な社会インフラとなっていることが明確に示されています。しかしその一方で、希望しても利用できない「待機児童」の数は依然として1万人を超えて存在し続けています(年によって変動します。最新のデータは厚生労働省のウェブサイトをご確認ください)。
このように、「小1の壁」の背景には、社会構造の変化から生じる「量的」「質的」な課題が存在します。民間学童は、こうした新しい時代の多様なニーズに応えるための一つの選択肢として、その役割を広げています。
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第3章:放課後の過ごし方を考える、10の選択肢
お子さまの放課後の時間を、ご家庭の状況に合わせてどのように組み立てていくか。ここでは、多くのご家庭で実践されている10の選択肢を、それぞれの特徴とあわせてご紹介します。

1. 働き方の調整 テレワークや時短勤務、フレックスタイム制などを活用する方法です。例えば、朝早く仕事を始める「朝型勤務」は、お子さまの下校時間と両立しやすい選択肢の一つです。ただし、利用には会社の制度や職場の理解が前提となるため、キャリアプランや収入とのバランスを考慮した上で検討する必要があります。
2. 夫婦での役割分担 従来、送迎などの役割は母親が担うことも少なくありませんでした。しかし共働きが一般的になった現代では、ご家庭の状況に応じて、夫婦で協力し柔軟に役割分担をしていくことが大切になります。例えば、「火曜と木曜は夫がお迎え担当」のように曜日で分担することで、お互いの仕事の繁閑に対応しやすくなります。
3. 会社の福利厚生の活用 近年、従業員を支える制度を充実させる企業が増えています。提携する民間学童の割引制度や、ベビーシッター、家事代行サービスの利用補助などが含まれることもあります。まずは自社にどのような制度があるか、人事部や福利厚生サイトで確認してみるのが良いでしょう。
4. 民間学童保育の利用 公設学童に比べると費用はかかりますが、延長預かりや送迎、多彩な学習プログラムなどが一体となっている施設が多いのが特徴です。ご家庭のニーズや予算に合った施設を選ぶことが大切になります。人気施設は早い段階で定員に達することもあるため、入学の前年から情報収集を始めると安心です。
5. 地域のサービスの組み合わせ お住まいの地域の社会福祉協議会などが、比較的安価な送迎サービスを提供している場合があります。「公設学童から、週2回のピアノ教室まで」といった、特定の区間だけをサポートしてもらうような柔軟な使い方も考えられます。ただし、対応エリアや時間に限りがある場合もあるため、事前の確認が必要です。
6. 祖父母など親族の協力 お子さまが最も安心できる環境で過ごせるのは、大きな利点です。特に、環境の変化に慣れない入学当初や長期休暇に限定してサポートをお願いするなど、頼り方を工夫しているご家庭も多いようです。一方で、継続的な協力は心身の負担になる可能性もあるため、感謝の気持ちを伝え、適切な距離感を保つことが大切です。
7. 自治体の子育て支援の利用 多くの自治体には「ファミリー・サポート・センター」のような、地域住民による相互援助活動の仕組みがあります。保護者の通院や冠婚葬祭といった、一時的にサポートが必要な場合に頼りになります。いざという時のために、事前に登録を済ませておくと良いでしょう。
8. 家族でのスケジュール管理 スマートフォンのカレンダーアプリなどを活用し、家族間で予定を共有する方法です。学童のイベント、習い事の送迎、保護者会などを一元管理することで、予定の重複や連絡漏れを防ぎ、効率的な時間管理に繋がります。
9. 保護者同士のネットワーク 同じ小学校や近所に住む保護者と連絡先を交換し、緊急時に「今日だけお迎えをお願いできない?」と助け合える関係を築いておくのも、心の支えになります。日頃からの情報交換や挨拶が、いざという時の助け合いに繋がることがあります。
10. お子さまと入学に向けた準備 入学前に、実際に通学路を一緒に歩いて安全な場所を確認したり、小学校のイベントに参加して雰囲気に慣れたりすることも大切な準備の一つです。お子さまの心が安定することで、保護者も安心して仕事に向かうことができます。
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第4章:選択肢の一つとしての民間学童
前章では、放課後の過ごし方を考える上で参考となる、様々な選択肢をご紹介しました。その中の一つである民間学童は、近年、多様化するご家庭のニーズに応える形で、様々な特徴を持つ施設が増えています。ここでは、民間学童が持つ役割や特徴について、少し詳しく見ていきましょう。
子どもの成長を支える「第三の居場所」としての役割
民間学童が持つ特徴の一つに、子どもの発達を支援する専門的な視点を取り入れている点が挙げられます。
近年、教育界で重要視されているのが、テストの点数などでは測れない「非認知能力」です。これは、目標に向かって努力する「やり抜く力」、感情をコントロールする「自制心」、他者と協力する「協調性」といった、お子さまが将来、社会で豊かに生きていくための「内なる力」を指します。
この非認知能力を育む上で、家庭(第一の居場所)でも、学校(第二の居場所)でもない、「サードプレイス(第三の居場所)」の存在が極めて重要であると、多くの専門家が指摘しています。 サードプレイスとは、お子さまがリラックスした状態で、多様な価値観を持つ大人や異年齢の仲間と関わり、主体的に活動できる場所のことです。
質の高い民間学童においては、このサードプレイスとしての機能を果たし、お子さまの成長をサポートする環境となるという専門家の指摘があります。
- 多様なプログラムへの挑戦は、お子さまの「やり抜く力」や「知的好奇心」を刺激します。
- 異年齢の友達との共同作業や遊びは、自然な形で「協調性」や「コミュニケーション能力」を育みます。
- 学校の先生でも親でもない、専門性を持ったスタッフとの対話は、お子さまの視野を広げ、「自己肯定感」を高めるきっかけとなり得ます。
このように、民間学童は、保護者の就労を支えるという側面に加え、これからの時代に不可欠な「非認知能力」を育む、教育的な価値を持つ「成長の場」としての役割も担っています。
第5章:ご家庭に合った民間学童を選ぶための視点
数ある民間学童の中から、お子さまとご家庭にとって最適な場所を見つけるのは、とても大切なプロセスです。ミスマッチを防ぎ、後悔のない選択をするためには、入会前にいくつかの点を丁寧にご確認いただくことが有効です。
ここでは、施設選びの際に参考となる視点をいくつかご紹介します。

視点1:お子さま本人との相性を大切にする
施設選びで最も重要なのは、お子さま自身が「ここが好き」「楽しい」と感じられるかどうかです。
- 実際の雰囲気を感じる 可能であれば、親子で体験入会や見学に参加されることが推奨されます。パンフレットなどの情報だけでなく、施設で過ごす子どもたちの表情や、スタッフの方々がお子さまに接する際の言葉遣い、全体の空気感などを肌で感じてみることが、多くのご家庭で有効とされています。お子さまがリラックスして過ごせそうか、という観点が大切です。
- 多様な個性への配慮 活発に体を動かしたい子、静かに本を読みたい子など、お子さまの個性は様々です。全員が同じ活動をするだけでなく、一人ひとりが安心して自分の居場所を見つけられるような空間的な配慮があるかどうかも、確認すると良いでしょう。
視点2:期待する内容を事前にすり合わせる
入会前に抱いていた期待と、実際のサービス内容との間にギャップが生まれないよう、事前にしっかりコミュニケーションをとることが推奨されます。
- プログラムや理念の確認 「英語教育」や「学習サポート」と一口に言っても、その内容や方針は施設によって大きく異なります。どのような理念に基づいて、どのようなプログラムが提供されているのか、入会前の面談などで具体的に質問し、ご家庭の教育方針と合っているかを確認しておくと良いでしょう。
- 安全管理体制の確認 お子さまの命を預かる場所として、安全管理体制の確認は非常に重要です。入退室の管理方法、アレルギーへの対応、怪我や急病時の連携体制など、安心してお子さまを預けられるかどうか、具体的な取り組みについて説明を受けることをお勧めします。
視点3:費用と規約の全体像を把握する
安心して長く利用するためには、費用や規約について、入会前に正確に理解しておくことが大切です。
月額基本料だけで判断するのではなく、長期休暇中の利用料や、イベント参加費、教材費など、別途料金が発生するケースについても事前に確認しておくことで、「こんなはずではなかった」という事態を防ぐことができます。契約前に書類にしっかり目を通し、不明な点はすべて質問してクリアにしておくことが、安心して利用するために大切なポイントです。
🔍️より詳しい内容についてはこちらをご覧ください
小1の壁を乗り越えるために ~「GOOD民間学童保育宣言」とは?~
第6章:費用について考えるための視点
民間学童を検討する上で、費用は多くの方が考慮する重要な要素の一つです。月額の利用料だけでなく、ご家庭の状況に応じて、どのようなサポートが含まれているのか、その内訳を整理してみることが、費用感を判断する上での一つの方法となります。
多くの民間学童では、月額の利用料に、単なる「預かり」以外の様々なサービスが含まれている場合があります。
- 時間のサポート: 保護者の就労時間に対応した長時間の預かりや、延長対応などが含まれることがあります。これにより、保護者が働き方の変更をせずに済むケースもあります。
- 学びの機会: 施設内で提供される学習プログラムや習い事の費用が含まれている場合、外部の教室に別途通わせる必要がなくなることも考えられます。
- 送迎などの安心: 学校から施設までの送迎サービスなどが含まれている場合、保護者の送迎負担が軽減され、お子さまの安全確保にも繋がります。
費用が妥当かどうかを判断する際には、例えば、公設学童の利用料に、外部の習い事の月謝や送迎サービスにかかる費用などを足し合わせた金額と比較してみることで、ご家庭にとっての価値が見えてくるかもしれません。
最終的にその費用が高いと感じるか、見合っていると感じるかは、ご家庭の状況や、何に価値を置くかによって異なります。情報を整理した上で、ご自身が納得できる選択をすることが大切です。
「小1の壁」と呼ばれるこの移行期は、多くのご家庭にとって、お子さまの成長とご家庭のあり方を改めて見つめる大きな機会です。
ご紹介したように、放課後の過ごし方には本当に多様な選択肢があり、どの方法が最適かは、ご家庭の状況やお子さまの個性によって異なります。大切なのは、様々な情報を参考にしながら、ご家族が最も納得できる、笑顔でいられる選択をすることです。
この記事が、そのための情報整理の一助となり、皆さまのご家庭にとって最適な「放課後の暮らし」を見つけるきっかけとなったなら幸いです。
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放課後の居場所づくりや民間学童に関する最新の調査・ガイドライン・施設情報は、一般社団法人民間学童保育協会 の公式サイトで公開されています。
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